そのようなヘルス名産の北千住

  • 投稿者 : グッチーセブン
  • 2011年11月8日 4:34 AM

覚えているかぎりでは、そんなところだ。生まれてから一九九○年六月のあの日まで、ここで暮らしていた。幼稚園、小学校一年、二年。空気があまりひどくない日にはせまい裏庭で、ひどい日には家のなかで遊んだものだった。家をながめたが、空き家であることはわかっていた。十年間、ずっとそうだったはずだ。この家を買おうとはだれも思わない。ここに住もうとも思わない。北千住なこのあたりの空気や、道の向かいが荒れ果てた工場だということは関係ない。ここで何があったかを知っている者なら、一秒だって立ち入るまい。そして、だれもが知っていた。だれもが。あたり一帯が見捨てられたかのようだった。デリヘルオーナーは一方のバッグをあけ、懐中電灯を取りだした。それから人気娘の手をとり、ステップを二段のぼって玄関まで導いた。ドアノブをまわす。強い北千住ならまわらなかった。道具を取りだし、錠をあける作業をはじめた。「何してるの?」時間はかからなかった。一分足らずだ。ドアノブをまわし、ドアを押しあけた。思いのまま北千住とは言いつつもふたたび人気娘の手をとり、中へはいる。最初に感じたのは寒さだった。九月の温暖な一日の終わりにさえ、異様な冷気が漂っている。窓という窓から差しこむ工場の明かりのおかげであまり暗くはなかったが、それでも電灯のスイッチを探したくなった。青白い光のせいですべてが水没したように見えるこの場所を、もっとあたたかい光で満たしたかった。人気娘は何も言わず、居間の奥へ進むデリヘルオーナーに従った。足もとで木の床がきしむ。異常な北千住 ヘルス名産の紘稚が敷かれていないことは覚えていた。

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